不動産領域におけるブロックチェーン活用の未来|PropTech JAPANイベントレポート
- ブロックチェーン技術の可能性
- 不動産業界におけるブロックチェーン技術の活用について議論するイベントが開催。業界内外から専門家を招き、不動産業界の現状や、ブロックチェーンを使うことのメリットや課題など、幅広い内容で意見が交わされた。
不動産や建設領域でのブロックチェーン活用
日本の不動産領域で、さらなるイノベーションに取り組むスタートアップのためのコミュニティ「PropTech JAPAN」が、「PropTech JAPAN Meetup vol.10 不動産×ブロックチェーン」を開催した。
イベント会場は、東京都が推進する「国際金融都市・東京」構想を契機に、東京証券取引所を中心とした新金融拠点形成に向けて、再開発が進められている茅場町のFinGATE KAYABA。米シリコンバレーにちなんで「カヤバレー」という言葉も最近聞かれるようになっている。
本イベントはブロックチェーンをテーマに掲げ、不動産領域でブロックチェーン活用に取り組む専門家も登壇。不動産や建設分野でイノベーションに取り組むピジネスマン向けの内容だ。
イベントは会場のスポンサーである平和不動産株式会社の荒大樹氏の挨拶で始まった。同社がもともと東京証券取引所と同じ企業であったことについて説明したり、日本橋兜町・茅場町地区の新金融拠点のブランド「FinGATE」について紹介。FinGATEについて荒氏は、「スタートアップ企業向けのエコシステムの中核となるようなプラットフォーム」だと語った。オフィスやイベント会場の提供、またサービス支援等をしていると活動内容を説明している。
PropTech JAPAN
次に今回主催をしたPropTech JAPANの紹介が行われた。PropTech JAPANは、日本の不動産業界や建設業界のスタートアップのエコシステムを構築し、人々の暮らしや業界の発展に寄与するイノベーターをサポートすることをミッションとした有志団体だ。
主な活動は3つ。1つ目は政府との連絡会議。国土交通省などとスタートアップの経営者らが相互理解を深める場を設ける活動をしている。2つ目はMeet Upのようなイベントを定期的に開催することで、3つ目は海外コミュニティとの連携活動だ。PropTech JAPANは運営チームを随時募集している。
不動産業界はIT投資や電子化が遅れていると言われているが、それをデジタルによる効率化や事業変革の潜在的な機会だと捉えている。現在、日本では不動産や建設業界内のスタートアップは増加傾向にある。Fintechのスタートアップは国内に200社以上あるが、現状で不動産は約75社、建設は約15社のため、これからさらに増えていくだろうと語った。
日本セキュリティトークン協会
続けて、一般社団法人日本セキュリティトークン協会(JSTA)の共同代表理事である並木智之氏が登壇。セキュリティトークンの概要と、セキュリティトークンを発行することのメリットから説明を始めた。主なメリットは、セキュリティトークンオファリング(STO)によって資金調達にかかる時間が短縮できることと、コンプライアンスコストが削減できることだと語っている。
JSTAの目的は、知見を持ち寄りあってセキュリティトークンのエコシステムの拡大を推進することだ。アメリカなど海外ではセキュリティトークンエコシステムは拡大しつつあるが、日本はまだ水面下の動きが多いと述べた。個人レベルではセキュリティトークンに関心を持っている人は多いが、このままだと欧米に遅れをとると警鐘を鳴らしている。
JSTAは今年5月に設立。「6月にはSTOの本数が1番多いとされている米Securitize社と提携を発表し、日本でイベントを共催した」と発表。セキュリティトークンに関する勉強会も開催していて、満席になるほど人気があるようだ。
JSTAはSlackというツールを用いて、会員が好きなタイミングでコミュニケーションをとれる場を設けている。それ以外の活動として、国内外の各種団体との交流を挙げた。例えば、メガバンクとセキュリティトークンのベンチャー企業との間の架け橋となり、オンライン会議を開くという活動だ。
今後の主な計画は、金融庁に向けたパブリックコメントの策定などだという。並木氏は最後にもう1度、「セキュリティトークンは日本ではブームは来ていないが、本当に水面下では熱いものを感じている」と語り、JSTAの紹介を締めくくった。
セキュリティトークンの法的な位置付け
続いて行われたのが、TMI総合法律事務所のパートナー弁護士である成本治男氏による、セキュリティトークンやSTOについての講演だ。与えられた20分という時間ではとても全て語りきれないと前置きし、金融庁の定義などを用いてイニシャルコインオファリング(ICO)の説明から始め、STOの国内外の事例を複数挙げて講演を進めていった。
クラウドファンディングの盛り上がりの流れで、セキュリティトークンに関する相談も増えていると感じているようだが、不動産業界以外の方がSTOの事例は多いと述べた。成本氏は、コードが読める弁護士が今後出てきたら強いだろうと語っている。
セキュリティトークンのメリットは以下のスライドの3点を挙げた。「流動性が高まる」という点に関して、有価証券を電子発行しただけで流動性が高まるというわけではなく、セカンダリーマーケットや交換業者などを設けて、そこで売買がされて初めて流動性が高まることを強調した。
今回の説明では2019年5月31日に成立した金融商品取引法の改正法も引用した。この改正はICOからの流れで実施されたと説明。今後は明確かつ適切に規制をしていくという流れだ。
この法律の新しい点として、電子記録移転権利という概念が作られたことを挙げ、これはセキュリティトークンを別の言葉で表していると解説。トークンになれば流動性が高まることから、株などと同じように「第一項有価証券」に該当するとみなされるようになっている。
それによって「第一種金融商品取引業」のライセンスが必要になるようになったため、業務を行うためのハードルは上がった格好だ。一方で資金決済法上の「仮想通貨(暗号通貨)」には該当しない点も明確にされている。本説明は、セカンダリーマーケットを設けた場合に公募に該当するか、私募に該当するか、またアメリカと日本では規制にどんな違いがあるかなど、専門性を深めていった。
セキュリティトークンの潜在的な活用例では、ビルなどの不動産だけでなく、スポーツ施設や観光施設、文化施設なども取り上げた。地域創生のようなトークン発行であれば、ふるさと納税と組み合わせてもいいと提案。あと成本氏は個人向けの私募REITを作ることにセキュリティトークンを活用してはどうかという話をあちこちでしているという。パネルディスカッションで自身が述べた「やりたいことから始ていかないと実用例が出てこない」を裏付ける幅広い提案だ。
最後に、セキュリティトークンは法律がまだ完璧には整備されていないが、セキュリティトークンに該当するいう前提で公募で話を進めるのか、またセキュリティトークンに該当しないという方向性で進めるのかなどを見極めて、商品性を模索し、勝算があるものを思いつけば、セキュリティトークンにはポテンシャルはある語り、講演を終えた。
パネルディスカッション
最後に行われたのがパネルディスカッション。事前の仮タイトルは「不動産領域におけるブロックチェーン活用の未来とは」であったが、来場者からも質問を受け付け、不動産領域以外にも話が及んで幅広い内容になった。
パネルディスカッションのモデレーターは株式会社マネーパートナーズ社長室長兼日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)広報部会長の西村依希子氏が務めた。パネリストは以下のメンバー。
- 宇野雅晴氏(株式会社BUIDLのVice President)
- 成本治男氏(TMI総合法律事務所のパートナー弁護士)
- 松坂維大氏(株式会社LIFULLのブロックチェーン推進グループ長兼株式会社LIFULL Social Funding取締役)
- 山田宗俊氏(SBI R3 Japan株式会社ビジネス開発部)
パネルディスカッションはまずはメンバーの自己紹介からスタート。松坂氏はそこで不動産業界でブロックチェーンを使う意義について解説した。不動産というのは情報の塊であり、その情報を元に価値を判断したり、価値を移転したりする。その情報を扱うにはブロックチェーンは相性が良いと述べ、以下のスライドにある「真正性担保」、「登記」、「証券化」の3つをテーマにしている語った。
全ての元になる情報を正しく保つために、改ざん耐性が高いブロックチェーンは適している。また松坂氏は「登記移転などに際し、二重譲渡がそもそも存在しない世界観を作れるのではないか」という思いで研究を現在進めていると説明。日本の不動産の99%は証券化されていないことにも着目し、そこに可能性を感じているようだ。
ブロックチェーンを「業務改善ツール」と捉えているという山田氏は、セキュリティトークンは電子化による「コスト削減」という話だけはなくなっていると語る。STOなどによって新しいマーケットが生まれようとしていると話し、プラットフォームを運営する立場からすると売上の向上に結びつくため、その収益化に面白味を感じていると語った。
西村氏が普段業務をしている中で、仮想通貨業界以外でブロックチェーンの話になると、「どうしてブロックチェーンを使わなくてはいけないのか?今までのデータベースではダメなのか?」といった声が必ず出るという。ブロックチェーンを導入する上で、山田氏のようにメリットを見つけていく姿勢は必要だろう。
この流れで、会場からの「ブロックチェーンでしかできない不動産分野での活用事例はあるか?」という質問に回答。松坂氏は、「現状ではブロックチェーンでしかできないことはない」と回答しつつも、効率化は望めると説明した。
宇野氏もブロックチェーンでしかできないことはないと同調した。そこは「0か1か」という話ではなく、「Betterかどうか」という視点が大事だと述べている。また、どの国でブロックチェーンを活用するのかも考える必要があると説明。新興国だと不動産の所有者すら明確ではないような状況が増えるので、マーケットを見極めることも重要だと語った。
ディスカッションでは、西村氏から客席にいる知人に実用例を求める場面があった。その知人の企業では、地震による建物の被害状況をブロックチェーンに記録しているという。不動産を転売する時にその情報が閲覧でき、耐震構造の証明にもなって、情報の透明性向上に貢献しているという。
ブロックチェーンを活用することによってSTOが可能になり、小口化できるようになって資金調達は以前よりもしやすくなったが、このことに対するデメリットはないのかという質問が西村氏から出た。
成本氏は、特に地方だと、クラウドファンディングならまだいいが、仮想通貨やトークンという用語を使うと怪しまれることがあるという点をデメリットとして挙げた。まだ理解が浸透していないという。西村氏も自身の業務と照らし合わせ、「仮想通貨業界は敵ばかりだ」と追随した。
本レポートでは不動産に関する内容以外は割愛したが、「フェイスブック主導の仮想通貨リブラをどう思うか?」という会場の質問から、「メンバーそれぞれにとって敵は誰か(何か)?」というテーマでディスカッションするなどタイムリーな展開も見られた。これには「敵は法律だ」という声が複数上がっている。
最後に、各氏が一緒に仕事をしたい相手を答えた。松坂氏は不動産業界の企業、宇野氏は自動車業界の企業、山田氏はIT業界の企業を挙げている。成本氏は明確な相手は指摘せず、講演の補足に時間を充てた。メディアがいることを期待しての質問だっために記載しておく。
まとめ
成本氏はブロックチェーンの発展や普及に関して、技術的に見ても山でいうとまだ1合目か2合目の段階だと述べた。課題もあるが、情報の真正性の担保やSTOでの活用などブロックチェーンが生かせる領域が不動産業界には多い。今後の発展に期待したい。
引用元: CoinPost
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