仮想通貨市場の価格-流通量に基づくHerfindahl-Hirschman指数等の諸分析(Jun 11, 2018版)
最近は価格の動きが比較的鈍くなって、上がるか下がるかどっちやねん的な雰囲気がTwitter界隈でも散見されています。ボラティリティが減るのは通貨として利用する分には有り難く、小売店も決済に利用しやすくなると思うのですが、投機家は満足いかないでしょうね。「世界は滅亡する!(その後に大々的復活)」論もありますが、はてさて時価総額等の推移はどうなっているか。(データは日本時間6/9取得)
6月初旬の仮想通貨市況と寡占度(Herfindahl-Hirschman指数)
まずは例によって時価総額和とHerfindahl-Hirschman指数(HHI)から示します。そろそろ図表の見方に皆様馴染まれたでしょうか。BTCドミナンスに注目しておられる方もいらっしゃいますが、より全体を俯瞰する指標としてHHIはやはり有効だと思います。データ取得時点で時価総額$10k以上の通貨を対象としており、今回は2016年6月からの推移を示しております(図1)。
図1:2016年6月1日以降の暗号通貨市場全体の時価総額和(上段)とHHI(下段)
先月の執筆時点では時価総額和(合計)がリバウンドしており、しっかりと4000億ドル規模にまで戻していたことから若干楽観視していました。時価総額の戻りに反して、HHIは4/29時点で1800を切る所まで下がっていました。
これについては、「BTC一強で時価総額和を引き戻したのではなく、アルトコインの奮闘あっての結果あるいはBTCに環流してきた資金がどんどんアルトに分配された結果」として先月見解を述べたところです。その後、時価総額和は低下に転じました。前回の谷よりかは高いところで留まっており、じわじわ戻しの動きを見せています。
現時点でのトレンドをどう見るか。ここが皆様の気になるところでしょう。ボトムでみるならば、私は2017年初頭からのトレンドに注目します。BTCUSDのみを対象とするならばより長期でのトレンドをみますが、HHIも2000を割る状況、すなわちアルト人気が高い状況でBTCUSDのみを掘り下げるのは妥当と思えません。そこで引いたのが赤破線で示したトレンドです。
2017年初頭は、メジャーアルトにじわじわと価格上昇の火がつき始めていた時期です。大きく火が付いたのはご存じ5月初旬。ここからしばらく赤線から上に離れていましたが、再びこのトレンドに戻してきたとも見えます。
よく観察すると、上離れしている時期も同様の傾きを持っていますね。5月に大きく資金流入してきたものの、トレンドとしては結局大きな差はなく、およそ1年で時価総額和が10倍になるペースで動いているかのようです。HHIの動きが鈍い点についてはよく分かりませんが、分散された2000近傍で収束しつつあるのは健全な市場育成の為には好ましいですね。
次は、時価総額の順位分布です(図2)。
図2:暗号通貨時価総額分布(当時$10K以上)
赤線が今回取得した最新データです。2ヶ月前から見ると、青線、緑線、赤線の順に時価総額分布は動いています。現在はちょうど2ヶ月前(青線)と1ヶ月(緑線)の間に位置しています。曲線の傾きにはほとんど変化無く、資金の分散状況が同様に保たれていることが分かり、これはHHIがほとんど変化していないことと矛盾しません。
次の図3は、コインおよびトークンと分類される通貨の時価総額準位分布です。これは図2の分布をCoin系とトークン系に分けたもので、それぞれの中で順位付けしています。青がコイン、赤がトークン、破線が先月、実線が今回のデータです。
図3:CoinおよびTokenの時価総額分布(当時$10K以上)
トークン系は上位100種で時価総額におよそ2桁の差しかない一方で、コイン系は4桁近い差を生じています。
これをどう解釈するかは難しいところですが、「コイン系は上位通貨に人気が集中、トークンは幅広い応用を謳っているので人気が分散している」というのが無難な線でしょう。すなわちトークンは応用ありきなので、人気が集中しないのは当然。コイン系は使われてナンボなので、普及の進んでいるもしくは進みそうなところに資金が集中しているのかなと。
ちなみに両対数で直線状になっているということは、これらは冪(べき)関数で表現できます。興味深いことに世の中の多くの自然現象や社会現象は冪乗則で表されますが、仮想通貨の世界も例外ではないようで。
次の図4は、コインおよびトークンと分類される通貨の価格対流通量の関係です。縦軸は価格、横軸は流通量を表しています。
図4:Coin(左)およびToken(右)のUSD価格と市場流通量の関係(当時$10K以上)
青破線は先月の記事にも書いていますが、BTCの時価総額と等価な曲線を示しています(BTC等価線)。すなわち価格と供給量積pSについて、pS=(Market cap of BTC)とした関数です。この等価線に乗っていればBTCと同じ時価総額であり、破線を超えた領域にいればBTCの時価総額を超えたということです。コイン系は割とこの等価線に近い所に多くの点があります。これらがメジャーアルトで、ETH、BCH、XRPなどが側にいます。
この分布、昨年末のピークトップの時期とは形状が異なるのでしょうか?次の図5で見てみましょう。
図5:171224時点の分布と比べるCoin(左)およびToken(右)のUSD価格と市場流通量の関係(当時$10K以上)
赤点が171224時点の点です。ほとんど変わりませんね。一部通貨はご存じの通り当時より大きく下がっていますが、分布の中心やその広がり方に大きな変化はありません。従って、価格と供給量については特定の依存関係があるようです。
最後に図6でコインとトークンの区別無く、USD価格と市場流通量の関係を見てみます。一部にはティッカーラベルを付けています。
図6:仮想通貨のUSD価格と市場流通量の関係(当時$10K以上)
右上に抜けているのが時価総額上位のコインやトークンです。BTC, ETH, EOS, XRPなどが抜けていますね。この分布を見れば、マクロで見れば流通量はやはり価格を決定づける一つの重要な因子であることは否定できないでしょう。
以上、6月初旬の市場についてまとめました。再び市場に勢いが付いたように見えましたが、その勢いは弱く、ボラティリティもない相場が続いています。HHIは引き続き2000を下回っており、特定通貨が強みを見せているわけでもありません。注目に値する点があるとすれば、時価総額和が2017年初頭のトレンドに乗っているかのような動きを見せていることでしょう。
(この記事を6/10に書きあげた翌日、まさかの10%超えの急落でトレンドの行方が既に怪しく…)
引用元: ビットコインニュース
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