エネルギー業界×ブロックチェーン -Corda活用事例紹介-
今回の記事は、「SBI R3 Japan」が公開しているMediumから転載したものです。
より様々な内容の記事に興味のある方は、是非こちらにも訪れてみてください。
はじめに
2019年は、様々な業界において、エンタープライズ業界でのブロックチェーン活用事例が増えてきた1年でした。エンタープライズブロックチェーン「Corda」においても、先日の記事で紹介させていただいた、貿易・サプライチェーン・金融などの事例を始めとして、様々な業界での実用化や実用化に向けた取り組みが進んでおります。
「Corda」については、金融機関が求める要件に基づいて、設計・開発が進められているという背景から(詳細を知りたい方はこちらの記事をご覧ください)、他社媒体においては、金融業界での利用に特化したプラットフォームとして説明されていることもあります。
しかし、「Corda」が他のブロックチェーンプラットフォームと比較して、優れている点の1つは、「必要な情報を必要な範囲内でのみ共有する(取引に関わらないネットワーク参加者には情報が共有されない)」という、企業間取引をする上では当たり前に求められる要件を満たしていることです。そしてこの要件は、金融以外の他業界でも求められることから、「Corda」では幅広い業界での活用に向けた取組が進められています。
本記事では、他業界の事例として、ブロックチェーン技術の活用が注目されているエネルギー業界について、「エネルギー業界×ブロックチェーン」「Corda事例の紹介」という2つのテーマで説明させていただきたいと思います。
エネルギー業界 ブロックチェーン
皆さんは、エネルギー業界において、ブロックチェーン技術が非常に注目されていることはご存知でしょうか?
2019/11にアメリカの調査会社「BISリサーチ」が発表した調査によると、エネルギー産業における世界のブロックチェーン市場は、2018年~2024年の6年間で市場規模が10倍以上に伸び、2024年には約63億ドル(6800億円)になるという予測がされています。
(ニュース記事参照元:https://www.coindeskjapan.com/28175/)
これ程のブロックチェーンによる市場規模の拡大が予測される理由として、エネルギー業界の以下の状況があげられます。
- 電力業界:分散型電源の需要増と再生可能エネルギーへの注目増
- 石油・ガス業界:高い運用コストの削減への期待
電力業界については、日本国内でも、
- 2016年に電力自由化が実施され、電気事業に対する市場参入規制が緩和される。
- 世界全体での温暖化対策施策の高まり(例:RE100)
⇒今までは中央集権型のシステムだったことから一方通行であった電気の流れが、双方向になっていく。
⇒再生エネルギーで発電された電力を利用することに価値が生まれている。
などから、ブロックチェーン技術活用への機運が非常に高まっています。 実際に2018年には、環境省が「ブロックチェーン技術を活用した再エネ CO2 削減価値創出モデル事業」
の公募を実施し、採択された事業の実証実験等が現在進められています。
これらは「情報だけでなく価値そのものを取引可能」という、ブロックチェーンならではの特徴を生かした事例となっています。
ここでブロックチェーン活用が既存取引を大きく変える可能性がある事例として、「二酸化炭素排出権取引」を紹介したいと思います。
「二酸化炭素排出権取引」とは、1997年に採択された京都議定書に基づき、先進国が温室効果ガスの削減を進めていくにあたり、その排出枠を国同士で取引するための制度です。そして現在では民間企業にも、取引制度が普及しています。
ただ現状では、排出枠(炭素クレジット)の取引を行う際に、排出枠の発行・管理・取引・換金についての書類作成と長時間の手続きが必要であるために、流動が活性化しない一因となっています。
しかし、排出量取引のプラットフォームを、ブロックチェーンで構築することで、
- 排出権のトークン化による流動性向上
- トレーサビリティ実現による信頼性向上
- 電子化によるドキュメントの削減
が実現可能となります。
このように、ブロックチェーンはエネルギー業界に大きな変化をもたらすことが予想されています。
Corda事例紹介/「Energy Block Exchange」
では日本では少し馴染みの薄い、石油・ガス業界について、「Corda」の事例を紹介したいと思います。
カナダにおいて20年以上にわたって、エネルギー業界に対するビジネスインテリジェンスを提供しているテクノロジー企業「GuildOne」は、2018/2に石油・ガス業界におけるロイヤリティー支払業務自動化を実現するプラットフォームをCordaベースで開発し、AWS上に実装しました。
※ロイヤリティー支払とは、生産者(石油・ガス会社)が権利者(地主)に対し、ガスや石油の売り上げの一部を権利として支払うこと。
パートナー
ブロックチェーンプラットフォーム:R3
クラウドサービス:AWS
生産者:NAL Resources Management Ltd.
権利者:PrairieSky Royalty Ltd.
金融機関:ATB Financial
では具体的に、このプラットフォームが既存業務に対してどのような変革をもたらすかについて、説明したいと思います。
このロイヤリティー支払業務については、主な課題として以下の3点が挙げられます。
- 契約条件を定めるために、複雑な計算や交渉を行う必要がある。
- 支払額の計算を、生産者及び権利者がそれぞれ独自に実施するため、作業に多大なコストがかかってしまう。
- 契約条件の解釈が異なる場合、交渉に時間がかかり、採番に発展する場合もある。
これらの課題を、ブロックチェーンで開発を行い、スマートコントラクト(契約の自動実行)を実現可能とすることで、以下の形で改善させました。
- 信頼性:ステークホルダー間で合意された契約内容が、ブロックチェーン上で確認できる状態で、ロイヤリティー支払の計算が行われます。
- 効率化:スマートコントラクトの活用により、ロイヤリティー支払の金額算出、および支払業務効率が80%向上します。
- 安全性:Cordaプラットフォームの利用により、関係者のみにアクセスを制限することで、機密性を保持します。
- スケーラビリティ:1か月に数千万のロイヤリティー決済を処理できます。
また、「GuildOne」COOのMike Gee氏は、ブロックチェーンプラットフォームの中で、「Corda」を選択した理由として、以下の点をあげています。
- 石油およびガス業界で必要とされる、プライバシー/セキュリティ基準を満たしている。
- 開発言語がJavaベースであるため、開発チームにとって馴染みやすかった。
⇒取引に関わらないネットワーク参加者には情報が共有されない
以上の点は、「Corda」が他のエンタープライズプラットフォームより優れている点であり、選定のポイントとなったことが分かります。
直近2019/12にも、「GuildOne」は石油・ガスブロックチェーンコンソーシアム(OOC)(「ExxonMobil」や「Royal Dutch Shell」などの代表的な石油/ガス会社7社が提携して設立したブロックチェーンコンソーシアム)と協力して「ブロックチェーン技術を用いた支出承認書投票システム」のテストに成功した事例を発表しています。
(ニュース記事参照元:https://bittimes.net/news/72776.html)
終わりに
こうしたニュースからも、エネルギー業界にてブロックチェーン技術の活用が、当たり前となる時代が近いことを感じることができるのではないでしょうか?
この記事を読んでいただくことで、エネルギー業界でのブロックチェーン活用イメージを持っていただければ、嬉しいです。
(記事作成:SBI R3 Japan/浅野)
引用元: CoinPost
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