デジタル人民元にまつわる現地情報まとめ ~2019決定版~
こんにちは。Fintertech マネジメントグループの孟です。
初めての投稿ですので、簡単に自己紹介をさせて頂きます。
- 中国の大学院を卒業後、2005年に来日。
- 14年間システム開発に携わり、その内7年間は証券・銀行のシステム開発に従事。
- 2019年1月よりFintertechに入社。
- システム開発と新規事業の企画に携わっています。
- Rust言語が好きで、仕事でも使えるので、最高。
今回はタイトルの通り、中国のデジタル人民元(Digital Currency Electronic Payment 以下、DCEP)を始めとした、ブロックチェーン関連の現地における報道や記事、公開されている情報をまとめて行こうと思います。
1.習近平国家主席の発言
習近平国家主席がブロックチェーンに取り組めと発言したことは日本でも話題になりましたが、これは政治局会議のブロックチェーン勉強会という場での発言です。これは近年においてはビッグデータ、人工知能以来、3回目の勉強会でした。
勉強会が開催された数日後には、講師を務めた浙江大学陳純教授が中国共産党の機関紙人民日報にも記事を発表しました。こちらの記事の内容のサマリは下記のとおりです。
- 今までのインターネットはインフォメーションのネットワークだが、ブロックチェーンがバリューネットワーク、信用ネットワークの基礎となる
- ブロックチェーンがデジタル経済の社会信用体系の架け橋にもなる
- 欧米がパブリックブロックチェーンを中心に発展していく中で、中国はコントロールできるコンソーシアムブロックチェーンを中心に発展していくべきである
また、発言後の中国国内における目立った動きとしては下記のようなものがみられました。
- 翌週の28日月曜日、中国のブロックチェーン関連銘柄に総じて高値が付く
- わずか半日でビットコインが30%値上がり(80万円⇒110万円)
- 中国海南省がブロックチェーン試験区を設立する
今回の発言を受けてブロックチェーンの企業は盛り上がりを見せてはいますが、ICOについては一層取締りを強化しているのが現状です。DCEPとブロックチェーンはウェルカムですが、「ICOや仮想通貨」までを含めて政府が奨励・推進しているわけではないということは認識しておいた方が良いでしょう。
2.DCEPの概要とモバイルペイ、Libraとの違い
様々な情報ソースがありますが、こちらの動画は情報がまとまっており詳細かと思います。
中国人民銀行(PBoC)の数字貨幣研究所所長穆長春氏がDCEPについて解説をしています。サマリとしては下記の通りです。
- 2014年夏からデジタル人民元を研究し始めていた
- 2018年から数字貨幣研究所が996体制(「朝9時から夜9時」「週6日勤務」)で作業を進めている
- デジタル人民元はいつでも発行できる状態になっている(呼之欲出)
- 既存の決済システム(銀聯、網聯)の知見を活用できるスキームでの運用を考えている
- 具体的には下記の二層の運営体制
-第一層:人民銀行 ⇒金融機関 人民銀行がDCEPを発行し、金融機関に卸す-第二層:金融機関⇒エンドユーザー 金融機関を介してエンドユーザーにDCEPが行き渡る。 KYCを含むアカウント管理などは金融機関が行う。
- 取引自体の匿名性を保ちつつ、AMLの対策はPBoCに蓄積されているビッグデータを利用して行う
- 最低限のスマートコントラクト機能を保有する
- DCEPは国の法定通貨、モバイルペイは銀行口座の残高で決済する
- モバイルペイは企業が運営のため破綻する可能性があるが、DCEPは国が信用を担保する
- モバイルペイはインターネットがない環境では使えないないが、DCEPはオフラインでも使えるように設計されている
- DCEPとモバイルペイは共存する
また、気になるLibraとの対比については、中国国内では下記のような整理・報道が成されている模様です。
- DCEPは国の法定通貨、Libraはコンソーシアムが発行する仮想通貨
- DCEPは人民元と平等な位置づけで、Libraはバスケット通貨をバックアップとする通貨
- Libraは国際的に使えるのに対し、DCEPは中国国内での利用
- DCEPはインフレーションのリスク、Libraは為替リスクが存在
3.DCEPの発行意義、実際の運用/流通イメージ
続いてDCEPの発行意義についての報道内容、発行から決済までのイメージについて見ていきたいと思います。
まずはこちらで報道されていたDCEPの発行の意義についてのサマリです。
目立つ点としては「貨幣主権を守る」ということでしょうか。Libraのようなグローバルなデジタル通貨に対して真っ向から取り組んでいるのは、いい意味で危機感があるのだと読み取れます。
また、実際の発行から決済までの流れについてはこちらの記事が参考になりました。
1. 発行
中央銀行がマスターキーを使ってDCEPを発行する
2. ユーザ登録
ユーザが金融機関のモバイルウォレットをダウンロード、アカウント作成
3. 引出し
電話番号だけの登録の場合、上限制約を設ける予定。日常生活を送るのに問題ない金額に設定する予定ではある。その他の情報も全て登録した場合制約がなくなる。また、大きな金額を引き出す際は、事前予約が必要
4. 支払
オフラインでも支払はできる。DCEPでの支払いが可能な店ではその支払方法を拒否することはできない。法的に整備する予定
DCEPは人民元と同等の位置付けということで、支払いを拒否できないというのは普及に向けては非常に大きい所かと思います。こういった思い切った施策を打てるのは、やはり中国だからこそというところでしょうか。
4.まとめ
以上、DCEPについて現地報道を中心にまとめてみました。すでに発行準備は整っていることと、それの裏付けとなる情報が多く揃っていたのは印象的だったかと思います。この辺はやはり国と企業が一体となって推進が可能な中国ならではのスピード感ですね。
ちなみに国民としても、既にAIや監視カメラといった技術が生活に馴染んでしまっているので、今更デジタル人民元と言われても嫌悪感や恐怖感みたいなものはないという人が多いと思います。この辺りも中国の強みですね。
中国は世界最初の紙幣を発行した国で、更に世界最初のデジタル法定通貨の発行を試みようとしています。またそれが成功し、他国もデジタル通貨を発行していくことで、我々の生活はますます便利になっていくでしょう。
中国のブロックチェーンへの姿勢における特徴は”ブロックチェーンがバリューネットワーク、信用ネットワークの基礎となる”という点だと考えています。信用を2種類に分けた場合、『本物・偽物を判断するための信用』と『どれだけリスクをとるべきかの信用(簡単に言うとどれだけお金を貸せるか)』があると思います。
前者はこれまでブロックチェーンを語る上で何度も出てきていますが、後者は信用力とも言い換えられるもので、純粋なブロックチェーンの話ではそこまで出てこない話かと思います。
政治局会議のブロックチェーン勉強会の文脈から考えると、『ブロックチェーンが膨大な情報に対し、正しく真贋を記載することによって、全ての価値があるものがデジタルデータとして紐づけられる。それこそが信用ネットワークの基礎であり、それを用いれば新しい信用力の創造が可能である。そして新しい信用力の創造は経済の新しいエンジンとなる!』と推測できます。
ここまで推測すると習近平氏がわざわざ発言したことも納得できます。
蛇足かもしれませんが、中国の方に対してKYCをやると、同姓同名の方が多くて非常に大変です。巨大な人口を抱える国なのでしょうがないことですが、こういった実際のペインもまた新しい信用力創造のための加速装置と言えるでしょう。
中国では金融以外の分野でもブロックチェーンの実装は進んでおり、ブロックチェーン大国となっていくのは間違いなさそうです。引き続き、現地の情報は調査しつつ、発信していければと思います。
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引用元: CoinPost
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