SegWit導入から1年、UASFが示したものとは
Bitcoin Improvement Proposal (BIP)の91と148が承認され、SegWitがビットコインのネットワークに導入された2017年8月から一年が経過した。SegWitの導入に関しては、ネットワークに参加するユーザー(ノード)、マイナー、開発者、企業などの思惑がなかなか一致せず多くの議論を呼んだ。
SegWitは結果として承認されネットワークに導入されたが、反対意見があったのも事実だ。SegWit導入から1年がたった今、あらためてSegWitが導入されるまでの経緯を簡単に振り返ってみたい。
SegWitとは
SegWitはSegregated Witnessの略で、2015年香港で行われたカンファレンス「Scaling Bitcoin」で、コア・デベロッパーのPieter Wuille氏によってアイデアが公表された。SegWitは、ブロックに収納されるトランザクションデータから署名データを分けることで、ビットコインの脆弱性であった「トランザクション展性」を修正する技術だ。これにより1ブロックあたりの収納領域が増え、収納可能なトランザクション数も増加し、ネットワークが効率される期待があった。さらに「ライトニングネットワーク」のようなスケーリング問題を解決するセカンドレイヤーアプリケーションの実装をより簡単にする狙いもあった。
SegWit導入に反対していたのが中国を拠点とするマイナーやSegWit2Xアグリーメント(NY agreement)に賛同した企業などだ。マイナーが反対する主な理由は、SegWitによりネットワークが効率化されると取引手数料が安くなり収益が悪化するからだ。さらにライトニングネットワークを活用した取引は、ベースレイヤーであるブロックチェーン上に取引データの大半を記録しないため取引手数料が発生しない。このような自身の収益悪化を懸念したマイナーからの抵抗があった。
中国大手マイナーのビットメインのジハン・ウー氏は「SegWitが導入されると取引手数料が不公平に安くなる」と発言していた。
You will find that the canonical block is less than 1MB but your tx fee is so high, after SegWit is activated. SegWit tx is unfairly cheap
— Jihan Wu (@JihanWu) May 28, 2017
マイナー側とNY agreementの企業は、ビットコインのスケーリング問題の解決策として、ブロックサイズを引き上げる提案をしていた。またマイナーはこの案に応じなければ、独自にハードフォークを行うことを示唆していた。
SegWitを巡る対立
SegWitが初めて提案されてから1年以上が過ぎた2017年5月には、多くのノードがSegWit導入に対して賛成の意思を示してた。一方、複数のマイニングプールがSegWit導入に賛成の意思を示していなかった。
そこで開発者を中心としたユーザーがとった行動がUASF(User Activated Soft Fork)のBIP148だ。BIP148はコア・デベロッパーのShaolin Fry氏によって提案され、マイナーにSegWit導入を迫る内容のものだった。BIP148はユーザー・マジョリティーで行われ、8月1日以降にSegWit導入の支持を表明していないマイナーが採掘したブロックを無効化するとしていた。
つまり8月1日以降、SegWitを支持していないマイナーが採掘したブロックはネットワークから受け取りを拒否されるため、電力を無駄に消費することになる。
BIP148を受けてビットメインは6月14日、「UAHF: A contingency plan against UASF (BIP148)」のタイトルで対抗策をブログで公表した。内容を要約すると、SegWitの導入後、SegWit導入に賛成していないマイナーを助けるためにハードフォークを行うというものだ。結果、8月にSegWitは導入されマイナー主導でハードフォークが起き、ビットコインキャッシュが誕生した。
SegWitは、UASFのBIP148が予定されていた8月1日を待たずしてマイナー・マジョリティーですすめられたBIP91で、90%以上の賛成シグナルを獲得してSegWitのロックインが決定した。BIP148とBIP91は本質的には同じだが、BIP91は有効化に係るしきい値が従来の95%から80%に引き下げられている。
対立の結末
SegWitを求めた開発者を中心としたユーザーと、それに反対したマイナーや企業の対立の結果は、2つのブロックチェーンに分裂するという結果になった。オフチェーンでのスケーリングを目指すビットコインと、オンチェーンでのスケーリングを目指すビットコインキャッシュに別れた。
ビットコインはオープンソースプロジェクトであるため、開発方針が異なればそれぞれに別れてプロジェクトを進めることになる。今回のUASFが示したものは、ビットコインの開発方針の決定プロセスがマイナーや企業の主導では行われないという点だ。
Bitcoin UASF demonstrated that users armed with code are more powerful than a billion dollar ASIC manufacturing cartel. #nodesrule
— shaolinfry (@shaolinfry) August 9, 2017
BIP148を提案したShaolin Fry氏は
「UASFが示したものは、コードで武装したユーザーは大金を持っているASICメーカーより強力だ」
とSegWit導入後にツイートしている。
ビットコインは非中央集権のネットワークであるため、それぞれのノードが互いにコンセンサスを共有する必要がある。そのコンセンサスを強制的に変更することは、たとえ大量のハッシュパワーを保有するマイナーでもできない。コンセンサスを簡単に変更することができないことが、ビットコインの開発の難しいところでもあり同時に価値なのだろう。
引用元: ビットコインニュース
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