ゴックス、ネム流出、規制の引き締めで3度目の「仮想通貨盗難」は防げない
今月に入り、隣の韓国でも2度のハッキング騒ぎがあった。被害額では史上最大とされる460億円のネム流出事件の10分の1程度だが、それでも40億円弱相当の仮想通貨がBithumbとCointrailで2度も盗まれたとなれば、世間の常識では考えられない大事件だ。Bithumbはコインチェックと同様に盗難損失の補填を表明している。
当局の引き締めは未成熟な業界の、金融ビジネスとしての健全な発展を促すという意味で歓迎すべきことだろう。数百万人の利用者を抱え、数百から数千億円、数兆円規模の資産を預かるからには金融機関グレードの厳格な経営管理体制が求められるのは当然だ。今後利用者が安心して利用し、さらには機関投資家や事業会社の参入を控えるからには相応のガバナンス体制が求められる。
仮想通貨交換業を含めた改正資金決済法は2015年のFATFガイダンスをもとにして作られた経緯もあって、マネロン・テロ資金供与の阻止(AML/CFT)に重点が置かれている。資金洗浄の経路を塞ぐことは、当局にとっても急務といえる作業だ。これまでの一連の行政処分においても、AML/CFTは際立って目立つ項目であり、コインチェックが匿名通貨の取扱廃止に動いたのには、こうした背景がある。その一方で米国のGeminiやCircleは、匿名通貨であるZcashやMoneroの取扱いを続けている。ニューヨーク金融サービス局が限定的ながらもZcashの取扱いを認めた点は、日本国内のトレンドと対比させると興味深い洞察が得られるのではないか。
日々の経営管理体制をモニタリングし、企業と利用者の間の利益相反を牽制し不正行為を防止することで、結果利用者の資産を保護するというのが当局の目線だ。しかしながら果たしてガバナンス体制の厳格化が、日々セキュリティの突破を目論む世界中のクラッカーの手から仮想通貨を守るという目的を達成しうるかとなると話が別だ。
コインチェックのネム流出事件はその金額の規模ばかりが取沙汰されているが、クラッカーの犯行手法とその速度、追跡可能性、捕捉不可能性など、技術的本質はあまり語られない。たとえ0秒で不正送金が検知できたとしても、鍵が知られてしまえば取り戻すことはできないのだ。善良な市民や事業者、当局は頭を悩ませるが、「仮想通貨はそういうもの」という前提なしで、従来的なトラストに基づくシステムと同じ考えを適用することの合理性はない。
金融庁は今年4月より「仮想通貨交換業等に関する研究会」を設置し有識者を集め、制度面からICOやデリバティブ、スマートコントラクトを用いたDapps等まで幅広く討論を行っている。また、2月にはVirtual Currency Governance Task Force (VCGTF)が発足され、仮想通貨交換業のセキュリティ体制やリスク管理体制、セキュリティ標準化について議論が進められている。
VCGTFでは仮想通貨の保管を専門とする交換業と分離したカストディアンの設置が提案され、ブロックチェーン国際標準化のための分科会であるISO/TC307にレポートが提出される見込みだ。スイスに本拠を構えるXapoは投資信託であるビットコインインベストメントトラスト(GBTC)のカストディアンとして機能しており、前例に学ぶ土壌もある。一方、カストディアンの設置は仮想通貨の決済速度の鈍足化を招くかつ、資産のより一層の集中を招くことから、仮想通貨信者の理想郷からさらに離れていくことも予想される。
Binanceがほんの1年で1000億円を稼ぐような企業に成長したことからもわかるように、仮想通貨業界は従来では考えられない急激な発展や変化を遂げる領域だ。監督しなければならない当局にとってみれば頭の痛い問題であるが、いま一度発想の転換が求められる時期に来ているのではないだろうか。ルールを厳格化するソフトフォークの発想から、ルールを一元化せず細分化するハードフォークの発想へだ。
業界をよく知る関係者は、「海外のプロジェクトはもはや日本に興味を示していない」と落胆を隠さない。日本はここから再び仮想通貨先進国を目指すことができるだろうか。その手腕が問われている。
(匿名寄稿)
引用元: ビットコインニュース
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